2011年10月23日日曜日

本「アマゾン・ドット・コムの光と影」【11年13冊目】

さて、更新していこう。

著者 : 横田増生
情報センター出版局
発売日 : 2005-04-19
<本の紹介>
出版業界のタブーをものともせず、急成長した要因は何か。徹底した秘密主義の裏側では何が行われているのか。元・物流業界紙編集長が覗いたネットビジネス、その裏側に広がるのは…。

<メモ>

  • 「アマゾンは今後、現状の取次在庫に依存するやり方から脱却して、買い取りによる自社在庫を増やしていく。つまり、取次を中抜きすることで利益率を上げることが、書籍販売におけるアマゾンの目指す完成形だ。」本を売るという小売業から出発したアマゾンジャパンは今後、川上である出版社やメーカーへの影響力を強めていこうとしている。
  • 物流を見ればその企業の全景が見えてくる。
  • アマゾンは、顧客が重視しているのは「品揃え」「利便性」「価格」の三つであることを突き止め、それを強化していくことに全力を挙げるようになる。
  • アマゾンドットコムでは、本が擦れ合う音を聞いたり本の匂いを嗅いだりできないし、おいしいカフェラッテを飲むことも柔らかいソファに座ることもできません。ただ、そういうものとはまったく違うサービスを提供することで、訪れる人を感動させ、体験を魅力的で楽しいものにすることは可能です。
  • 直接人を介さないネット書店において、人のぬくもりが感じられるような書店を作る。
  • ピッキング「1分で3冊」検品「1分で4冊」棚入れ「1分で5冊」手梱包「1分で1個」。ノルマとコンピュータによる監視の組み合わせこそが、アルバイトを働きアリへと駆り立てるムチの役割を果たしている。
  • 「今回のスピード ○.○冊/分」が毎回出る仕組み。数字を自身で確認できることが、落としたらマズイという心理を植え付けていく。
  • アルバイトが考えなくていいということは、それだけ単純なミスが減るということ。
  • 一番大切なことは、間違った商品を送ってはいけないということ。ネットユーザーの間では、悪いウワサが信じられないくらいのスピードで広がるもの。
  • 書店が帯なしで本を売ったとしても法的な問題はない。アマゾンが平気で帯を捨てるのはなぜだろう。サイトからは消費者に帯のあるなしがわからないからなのか。帯がないくらいでは返品にならないと踏んでいるからなのか。それとも、アメリカの本には帯がないので、帯などは無用の長物とでも思っているのだろうか。些細なことにも思えるのだが、この帯をないがしろにするところにアマゾンという企業の一端が表れているような気がした。
  • もしかしたらアマゾンに本好きはいないのかもしれない。本好きというより、コンピュータおたくの集団というのが、アマゾンという企業のある一面をあらわしているのではないかと思い始めた。
  • 日通は業界紙を総会屋とほぼ同列にみなし、一定の距離を保ちながらも付かず離れずの関係を続けていた。懇親会は懇親会ではなく、にらみを利かせることが目的だった。
  • これまでの日本は、教育や雇用の機会が平等に与えられ、その結果として個々に差がつくという"機会平等、結果不平等"の社会であった。しかし今、その平等な機会さえも与えられなくなってきており、はじめから優劣の結果がついた"機会不平等"の社会になりつつある。 機会不平等
  • 永遠に続くように思える単純作業に身を沈めていると、緊張感や集中力はすり減って、惰性に取って代わられる。同じ労働であっても、業界紙で働いていたときと比べると全く質が異なる。センターでの作業に自己実現や達成感を見出すことは難しかった。どんなに頑張っても、将来につながるものが見えてこない。
  • 鈍い痛みを持つ右手首。筋張った右手の指。細かい鉄片が突き刺さった掌。疲れの溜まった背の筋肉。胸やけする胃。これが僕に残されたものだ。 自動車絶望工場
  • アマゾンの場合、どれだけ長く働こうとも時給は900円のままである。アマゾンには長く働きたいと思うインセンティブが欠けている。というより、誰でもできる単純作業なので、アルバイトに長く働いてもらう必要はない、とアマゾンが考えていることのあらわれなのだろう。
  • 90年代以前のオールドエコノミーと呼ばれる経済成長期の大量生産・大量消費の時代において、企業には労働力を正社員として囲い込み、一生涯戦力として養っていくだけの体力とその必要性があった。しかし90年代半ばからIT企業を中心としたニューエコノミーが台頭してくると、魅力ある商品を安く提供しなければならないという市場のプレッシャーから、企業が正社員として大切にするのはごくわずかな有能な人材だけとなった。代用可能な労働力は、いつでも切り捨てることができるアルバイト、ないし派遣社員を使う。言い換えれば、単純労働者の処遇を気にかけているようでは、国際競争に勝ち残れない時代となってきたのだった。アマゾンはそんなニューエコノミーの典型的企業といえた。
  • 「自動車絶望工場」を買っているのは、毎年トヨタに絶望して辞めていく労働者たちではないのか。洪水のように出版される"トヨタ礼賛本"では決して取り上げられることのない労働者の悲痛な叫びの詰まったこの本を読んで、つらいのは自分だけではないんだと知る。疲れ果て敗北感にまみれた彼らの心を癒すセラピスト代わりをつとめるのがこの本であり、それが20年もの間売れ続けてきた理由ではないのか。
  • 日本の書籍流通は、約400社の出版社を出発点にして、およそ100社の取次を経由して、20000軒を超す書店に流れていく。
  • 新品よりも安い中古商品を同じサイトに載せることは、自らの商売を邪魔しているようにも見える。しかし実は、自ら商品を仕入れ顧客に届けた後で手元に残るわずかな利益よりも、第三者が顧客のもとに届けてくれて、手にする手数料の方が割がいいという計算。
  • このマーケットプレイスのような手数料ビジネスに力を入れ始めたことで、アマゾンはようやく利益が上がる経営体質になったという。送料無料によってアマゾンの本業である通販の利益率が若干下がることがあっても、サイトの利用者数が増えれば、副業ながら利益率の高い第三者委託が増えるので、全体としてはプラスとなっている、というのだ。
  • 能力給とか成果主義といえば、頑張った人がその分報われ、能力次第で収入も増えるような給与体系のようにも聞こえる。しかし、実は働く人間の競争心を煽るだけ煽って、結局は支払い給与の総額を引き下げるための都合のいい口実にすぎないことを、すでに日本中が気づいている。
  • 通常、書店の取り分は本体価格の22%。直取引であれば35%程度。
  • ニューエコノミーの下では、専門的能力を必要とされる職種と、マニュアル通りに働くだけで能力の向上原則不要の職種に2極化していく。前者に属する人は、若い頃から選別され専門能力をつけるよう働きかけられ、後者に属する人は、仕事能力向上の機会がないまま一生単純労働に従事するように運命づけられることになる。前者は、企業から引き留め圧力が働き、収入は高くなり、転職にも有利な条件が示される。一方、後者は、一生低賃金を強いられ、解雇・失業リスクも高くなる。 希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く

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